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『インコタームズ2020』ー⑤
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『インコタームズ2020』ー⑤
(3)FCA規則に船積済み船荷証券の付記のある船荷証券を含めたこと
 ~(前号)よりの継続アップ~
 この決定に至る過程で、ICCは具体策を幾つか考案した。それらは;
 ➀ FOBをコンテナ貨物の取引にも使えるようにFOBの使用可能領域を広げるFOB拡充策、
 ② コンテナ取引に本来誤用であるとされるFOBの使用を認めるわけではないが是認するFOB使用是認策、
 ③ 信用状取引に船積船荷証券が必要であるのかその是非に関して根本から見直すべきではないかという船積船荷証券再考策、
 ④ FCAに船積済みの付記のある船荷証券を認める策というものだった。

 FOB拡充策は、コンテナ取引にはFCAを使用せよとの過去数十年に亘り提唱してきたICCの姿勢を根本から覆すものであることや、FOBの使用可能領域を広げた場合には相場性のある商品取引に大きな影響を及ぼすと考えられたために、採択されなかった。
 FOB使用是認識は、誤った用法であることを知りながらFOBを使う以上、その使用者は自らそのリスクを引き受けなければならないとするものである。裏返せば、積極的にリスクを引き受ける者であればFOBを使ってよいとの考え方である。規定そのものは前版の2010版のままとするために2010年版維持策とも呼べるものであるが、より厳密にいえば、FOB不使用を推奨する声を押さえる方向に作用することから2010年版とは同じではなくなり、結果として、➀の方策と同方向の性格を帯びた策となる。これらを考慮すれば、FOB使用是認識は、FCAを推奨するICCのこれまでの姿勢と矛盾するため、採択されなかった。
 船荷証券再考策は、上の➀、②の両策とはアプローチの対象が異なり、銀行に対する問いかけであった。担保主義を重んじる銀行に船積み付記のない船荷証券を認めさせる余地はないのだろうかとの問題意識に基づく内容である。一般的に、信用状取引の場合、銀行は実際に約定品を積んでいるか否かがわからないとして、船積みした旨を記していない船荷証券を認めない。信用状に基づく輸入決済では、発行銀行には支払義務があり、発行依頼人から求償が得られないときは担保荷物の処分を行わざるを得ないため、船積み付記のある船荷証券を求めるのが通常である。

 こうして上記の3つの方策を取り上げてみてきたが、それらを集約したのが、上記④の策である。
すなわち、上の➀、②の結論からは、FOBが依然として使われているもののやはり推奨すべきはFCAとするこれまでのICCの一貫した姿勢をさらに推し進めることの重要性を再認識できたのであり、また、③の結論からは、信用状取引に船積船荷証券が求められるのは当面の間はやむを得ないという厳しい現実を受け止めることができたのである。
 このように上記の➀、②、③からの帰結の全てを融合したのが、この④のFCAに船積済みの付記のある船荷証券の提供を認めた策に現れていると理解できるのであった。
 
 こうして、現実のある局面には妥協しながらも、FCAの一層の利用増加を目指した、いわば折衷的規定として、2020年版のFCA規定に船積み付記のある船荷証券を含める規定が設けられたのであるが、この規定に問題がないわけではない。
 約定品は既に内陸地で運送人に引き渡されているが(コンテナターミナルのCY/CFSで)その後、本来積まれるべき船舶に鮒済積みされる前に、なんらかの理由で大きな損害が発生した場合、船積を証した船荷証券が発行されない事態も容易に想像される。船積書類を整えることができなければ、銀行での荷為替取組も不可能となる。そのような場合、売主はどうしたらよいのか、どうすべきなのか。
 インコタームズそれ自体からは何らの解答も得ることができない。インコタームズの限界についてはよく知られている事であるが、2020年版のFCA規定を利用しようとする実務家はこの事態の発生に備えて事前にそれへの対応を考えておく必要があろう。
 とりわけ、物品引渡地たる内陸地と、船積港が遠く離れた遠隔智間にある場合には大いに留意しておくべき事項である。

 したがって、FCA規則に船積済みの付記のある船荷証券を含めたこの2020年版の新しい規定に関し、現時点で評価を下すのは時期早々と思われる。正当な評価を下すには、2020年版のFCA規則を用いる売買当事者をはじめ運送業者や銀行等の実務家の声に静かに耳を傾けるとともに、それらに対するICCの今後の反応を慎重に見定めてゆくことが重要なのであろう。

 ~以下、(次号):「一部規則における運送手段に関する自己手配規定の明文化」に継続アップ~

(記事出典:田口尚志 氏(早稲田大学商学学術院教授) 2019/11)

 blog up by Gewerb  「貿易ともだち」 K・佐々木
『インコタームズ2020』ー⑤_a0061688_333364.jpg

by Gewerbe | 2023-05-28 06:26 | Trackback | Comments(0)