『「TPP11」と「日EU・EPA」の原産地証明制度の相違点ー⑤』
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『「TPP11」と「日EU・EPA」の原産地証明制度の相違点』
~唯一の原産地証明制度として自己申告制度を導入~
【TPP11:いずれかの当事者が原産地証明書を作成】
「TPP11」は、米国が元のTPPから離脱したものの、原産地規則の内容は元のTPPから変わっておらず、米国のFTAの影響を色濃く受けていると考えられる。実際、米国はTPP参加国のうち6ヵ国とFTAを有し、それぞれ自己申告制度が採用されている。そのうち最も早い1994年に発効した北米自由貿易協定(NAFTA)では、原産地証明書は輸出者が作成する制度となっている。その後発効した「米国シンガポールFTA(2004年)」と「米国オーストラリアFTA(2005年)」では、原産地申告は輸入者がその知識や所有する情報に基づいて行うと規定されている。これに対し、「米国チリFTA(2004年)」では、原産地証明書を輸出者、生産者または輸入者が作成するというTPP11に近い内容となっている。TPP参加国以外の米国FTAでは、「米国韓国FTA〈2012年)」も「米ペルーFTA」と同様である。
また、「日豪EPA」では、選択的ながら、いずれかの当事者が作成する原産地証明を用いることができる。TPP11の中でも経済規模の大きい日本、オーストラリアの両国間で、五個証明制度を実現していたことも、TPP11当事者間での合意を促した要素に挙げられるだろう。
【TPP11における検認:輸入国税関が輸出国に直接検認を実施】
「TPP11」では、輸入国税関が直接輸出者・生産者に書面または訪問による検認を行う。TPPの原産地規則の形成に影響を与えた米国の場合、NAFTAやオーストラリア協定などでこの方式が採られている。特にメキシコから米国への輸出で米国税関国境取締局(CBP)から検認を事例も報告されている。例えば、在メキシコ日系自動車メーカーは「過去に1度、NAFTA利用でCBPの検認を受けたことがあるが、CBPに情報やデータを開示することで解決した」という実例を紹介している。
日本の場合、これまで第三者証明制度に基づくEPA利用では、輸入国税関から経済産業省、日本商工会議所を経由して間接的に輸出者・生産者に検認が行われてきた。ただし、「日豪EPA」では制度上、輸入国税関から直接、輸出者・生産者に検認を行うことができると規定されている。
輸入国による直接的な検認に対する留意点としては、原産性を示す根拠資料を英語で準備することへの負担感が指摘される。この点、TPP11では、輸入国税関による書面での検認要求を受けた輸出者・、生産者、輸入者には少なくとも30日間の回答期間、訪問の場合も視察を受け入れるかどうかの回答に30ニチの猶予期間が認められており、この間に、関連書類の翻訳など準備を進めることができる。また、輸入国による直接的な検認では、輸入国側の求めに応じ、適当と認められる場合には輸出国当局が支援を行うことができるほか、輸入国当局が訪問を行う場合は輸出国当局に輸出国側企業への同行の機会が与えら荒れる。つまり、輸出者・生産者は必ずしも自社のみで輸入国税関に対応しなければならないという制度ではない。
(記事出典:ETRO(ジェトロ海外調査部国際経済課・安田 啓 氏 2019/01/23)
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