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『炎が醸す 酒の隠し味 有明産業の洋酒樽造り』
~もっと関西、ここに技あり~
火元に被せた洋酒樽(たる)が工場の一角にずらりと並ぶ。職人がショベルでおがくずを投入した次の瞬間、粉塵爆発で炎が天井まで吹き上がった。ウイスキー、焼酎、ワインなどの酒の貯蔵や熟成に使う洋酒樽造りの現場だ。
有明産業(京都市)は国内唯一の洋酒樽専門メーカー。宮崎県都農町の工場では年間5,000本以上の洋酒樽を造り、国内外の醸造所へ出荷している。
樽(たる)の内面を炭化させる焼煙加工は酒の熟成や色、香りを決める重要な工程だ。
職人は燃え盛る炎の熱をものともせず、樽を手で横倒して転がす。こうすることで内面が均等に焼き上がる。機械に頼らず、火の上り具合や音などから消火のタイミングを見極める。「ヘビーな焼きでカラメル、ミディアムではハチミツ、ライトならバニラの香りになる」と小田原社長は話す。
洋酒樽には北米産ホワイトオーク(樫)を用いることが多いが、新たな挑戦として国産のサクラ、クリ、ヒノキなどを使い始めている。ホワイトオークより液漏れしやすく樽への加工は難しいが、サクラは桜餅、クリはモンブランのような独特の香りを酒に与えられる。取引先には「他社の酒と差別化できる」と公表だ。
「樽は酒の調味料。酒類が増えれば、塩コショウだけでなく、しょうゆとソースなどのように味の幅が広がる」(小田原社長)。
創業は1963年。京都・伏見の酒蔵向けに一升瓶を入れる木箱メーカーとして出発したが、プラスチックケースの普及で販売が減少。宮崎県で焼酎を造っていた大手酒造会社の依頼で1984年、同県にて洋酒樽製造に乗り出した。リーマンショック時には、売り上げが10分の1に。3年前には世界的なウイスキーブームで木材の輸入が止まり、納品できなくなった。
小田原社長は各地の蒸留所を回って頭を下げる中、取引先が最終的に求めているのは樽自体ではなく、樽が醸す「酒の味わい」だと気付く。注文通りに樽を造るだけでなく、酒を美味しくするために自ら提案できることを模索。国産材での製造を始め、扱う商品を増やし幅を広げるため、中古樽の再生事業も拡充した。事業は回復し、海外の蒸留所への出荷も始まった。
昨年には自社製品の酒「タルスキー」の販売も始めた。長期の樽熟成で一定以上の琥珀(こはく)色になった焼酎は酒税法上の区分で出荷できない。取引先の蒸留所で眠っていた焼酎に糖質を加え、リキュールにすることで商品化に成功。海外展開を視野にラベルは英語にした。「京都から日本の酒文化を世界に発信したい」。ボトルにあしらわれた京友禅姿の女性は、小田原社長の意気込みの表れだ。
(文・写真:日本経済新聞・大阪写真部 淡嶋健人 氏 2018/10/15)
blog up by Gewerbe 「貿易ともだち」 K・佐々木